はじめに
生成AIがプロダクトに組み込まれる時代になり、「プロンプト設計」という新しい設計領域が注目されるようになりました。
プロンプトとは、ユーザーの入力やAIへの指示のこと。一見、エンジニアやAI開発者の仕事に見えるかもしれませんが、UXデザイナーこそプロンプト設計の中心に関わるべき理由があります。なぜなら、プロンプトは「人の意図をAIに伝えるインターフェース」であり、ユーザー体験そのものに直結する設計要素だからです。
本記事では、UXデザインとプロンプト設計の共通点を紐解きつつ、相互補完的な関係を整理し、UXデザイナーがどう関わるべきかを考えていきます。
プロンプトとは「見えないUI」である
プロンプトは、ユーザーがAIに「どうしてほしいか」を伝える入力です。その役割は、GUIのボタンやフォームと同じく、ユーザーの意図をシステムに伝えるための“インターフェース”です。
たとえば:
- 「見積書をPDFにして」
- 「5歳向けに説明して」
- 「優しく、フレンドリーな感じでメールを書いて」
これらは、ボタンではなく“言葉”で設計するUIと言えるでしょう。
UXデザインとプロンプト設計の共通点
UXデザインとプロンプト設計には、驚くほど多くの共通点があります。
項目 | UXデザイン | プロンプト設計 |
---|---|---|
ユーザー理解 | ペルソナ設計、ユースケース分析 | 文脈と入力意図の把握 |
目的の明確化 | タスクベースの導線設計 | 出力の期待値設定(トーン、形式など) |
ガイド設計 | フォームのプレースホルダ、入力補助 | プロンプトテンプレート、事前指示 |
フィードバック | 適切なエラーメッセージ、状態変化 | 応答の明確化、リトライの仕組み |
繰り返し改善 | ユーザビリティテスト、A/Bテスト | プロンプトチューニング、バリエーション検証 |
つまり、プロンプト設計は“UX設計の言語版”とも言えるのです。
プロンプト設計にUXデザイナーが関わる意義
ユーザーの表現を翻訳する役割
プロンプトは、ユーザーの曖昧な表現をAIに伝える翻訳装置でもあります。UXデザイナーは、「言いたいことをどう言えば伝わるか」を設計する力を持っており、これはまさにプロンプト設計の本質です。
言葉のインタラクションをデザインできる
LLMとの対話は、GUIのように固定された選択肢ではありません。だからこそ、「自然な言い方」「誤解しにくい言い方」「ユーザーが気持ちよく書ける言い方」を意識した設計が求められます。
UIとプロンプトをセットで設計できる
プロンプトを設計するだけでなく、プロンプトを書かせるUIの設計もUXの仕事です。
たとえば:
- 入力例を見せる
- ボタン選択からプロンプトを生成
- 口調・トーンの選択肢をUI化
- プロンプト履歴の保存・再利用機能
実務に活かすための3つのアプローチ
1. プロンプトテンプレートをUIに埋め込む
ユーザーが自然に入力できるように、構造化されたテンプレートをUIに反映します。
例:
「〇〇について、△△なトーンで、□□のフォーマットで説明してください」
→ UIでは「対象内容」「トーン」「形式」の選択肢を持たせる
2. 「プロンプトを書くUX」を設計する
プロンプトは“書かれるもの”ではなく“導かれるもの”という発想が大切です。
- プレースホルダで書き方を例示
- 書いたプロンプトに対してフィードバックを出す
- 自動補完や変換機能を活用して入力をサポートする
3. 出力の“わかりやすさ”を評価し、改善につなげる
ユーザーがプロンプトを書いて得られた出力に対し、UX観点でフィードバックを収集。
- 期待通りだったか?
- トーンや長さは適切か?
- 改善するならどこか?
このループが、プロンプト改善のヒントになります。
おわりに(まとめ)
プロンプト設計は、単なるAIの設定作業ではありません。ユーザーがAIとどう関わり、どう結果を得るかという体験全体を設計する仕事です。UXデザイナーの本領は、“人とシステムの間を設計する”こと。したがって、プロンプト設計にも自然にフィットし、むしろ積極的に関わるべき領域であると言えます。
- 言語でのやりとりをUIとして設計する
- 曖昧なニーズを“伝わる表現”に翻訳する
- 結果に対する納得感までを含めて体験設計する
これらを一貫して設計できるのは、UXデザイナーの強みです。
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